「blog の更新は現実逃避」の精神で頑張っておりますが,これだけ環境問題に関して真面目に扱っているblog にも関わらず,「MMR」とか「古細菌アーキア」とかのキーワードでの検索はアホみたいに沢山引っかかっているのに,「環境問題」とか「地球温暖化」というキーワードで検索して来て下さるお客様がちっとも増えないことが若干不満だったりするyulico です.こんばんわ.今日も今日とて,懲りずに環境問題ネタを書き付けるのであります.
なんだかもう,「環境問題(笑)」として,かなりシリーズ化しているこのタイトルですが……,また,面白い話を小耳に挟んだので…….
話は先日幕張メッセで行われた
地球惑星連合大会という学会でのことらしいです(らしい……と言うのは,わたし自身が参加していないのでまた聞きだからです).そこで
「21 世紀は温暖化なのか、寒冷化なのか?」というシンポジウムが開かれたそうです(笑).世話人になっているのは(温暖化の原因は二酸化炭素の増加ではないという主張で)有名な丸山茂徳先生(僕自身が丸山先生のこれまでの業績を非常に尊敬していますので,先生の名誉のためにリンクはいたしません).
どうも噂と講演要旨によると丸山先生は,そのシンポジウムで「宇宙線による雲の発生」が原因による地球温暖化仮説を大々的にアピールした上に,地球は2030 年代に入ると寒冷化する,という仮説を唱えられたそうです…….
…….
「宇宙線―雲形成仮説」について,簡単に説明しますと,地球に降り注ぐ宇宙線量が増加すると「雲」が形成されやすくなり(仕組みについては「霧箱」で検索して下さい),アルベド(地球の反射率)が増加するため入射する太陽光線量が減少するため地球は「寒冷化」し,逆に宇宙線量が減少すると逆の仕組みで「温暖化」する,という仮説です.
(※ただし,仕組み自体は科学的に正しくとも,この程度の雲の増減(しいては宇宙線量の増減)は,
短期的な気象の変化を引き起こすことはあっても,決して気候変動を伴うような大規模な環境変動は引き起こさない.そのため,多くのサイエンティストにとっては,本来の意味での気候変動を伴う温暖化に大きな影響はないと考えている(なぜなら,雲の形成自体には地表の気温が宇宙線量よりも遥かに大きな影響を与えることが明白であるため)).
以前から,地球温暖化に関する異説(ここでは現在最も主流である二酸化炭素原因説以外とします)は数々挙げられてきました.比較的科学的考証がマトモなものでも「太陽黒点周期説」しかり,今回の「宇宙線―雲形成説」しかり…….また,ほとんどオカルト・偽科学であるものまで数えれば,それらの異説は数限りなく存在します(上記2説以外の異説は
その説を支える科学的・論理的根拠がほぼないので名前を挙げることを控えます).
このような異説(太陽黒点と宇宙線の二説ね)が,どうして一流の地球科学者を惑わすのか?それは,おそらく根本的な「温暖化」という言葉に対する定義の差にあります(もちろん,各説の論理の根本が間違っていない,という点は重要だけど).
私を含む多くの地球科学者は「温暖化」「寒冷化」という言葉を非常に大きなスケールで捉えています.簡単に言えば,くっきりと気候が変わってしまう「気候ジャンプを引き起こすか否か?」という観点でものを見ています(「白亜紀=温暖期」,「氷期=寒冷期」というレベルの議論).しかし,おそらく,丸山先生をはじめとした「異説」の支持する方々の多くは「もの凄く短期スケールの気温の増減」にとらわれすぎているのではないかと思います(極論を言えば,去年より年平均気温が下がれば「寒冷化」,上がれば「温暖化」というレベルの議論).そもそも議論のスケールが噛み合っていないのだから,
ディスカッションにすらならないというのが現状です.
もっと噛み砕くと,こちらが「あと数百年,数千年と言うスケールで,両極から氷が無くなるかもしれない」という議論をしているときに,「次の十年で気温が0.1 ℃下がった(上がった)」という議論をしている人たちがいる,ということです.メインの問題が前者の議論であるとすると,後者の人々が検討はずれの議論をしていることは誰の目にも明らかだと思います(とか,ただの一学生が自分自身が尊敬する先生のことを悪く言ってしまうことになるのは凄く嫌なんですが……).
しかし,こういった学説が大御所の先生の口から誤って広がってしまうことは,非常にまずい現象です.世の中にはこういう反主流な学説を「反主流である」という理由だけで,吹聴しまくる人間が多くいるからです(こういう問題に関しては,これまでもさんざん書いてきましたが,一応,一番下に関連リンクを貼っておきます).そもそも,ただでさえ一般の人々の間では,最早ほとんど疑念を差し挟む余地のないはずの現在の議論に,有象無象の異説が紛糾しているかのように見えているのだから,なおさらです.
では,そもそも,なぜこんなにも地球温暖化に関する議論が紛糾している(ように見える)のか?
ここに飲茶さんという方が主催されている
「哲学的な何か,あと科学とか」というweb site から
「フェルマーの最終定理(8)」という文章を紹介しましょう.
(※ただし,このサイト自体は管理人の文系脳が酷いので,科学読み物系サイトとしては全くお勧め出来ません(そもそも,このサイトは,いずれこのblog でこてんぱんに叩こうと思って読んでいたのです.でも,こうやって引用した以上叩き辛くなってしまったかも……www).ただし,飲茶氏の文才はなかなかのもので,こういう寓話については,非常に読み応えがあります)
この文章は「フェルマーの最終定理」という「一見簡単そうに見える超難問」にまつわる数学史物語の中の一章です(この一連の著作は
物語としては読み応えがあるのでお勧め).僕にとっては,この章の主人公が「最終定理」に取り付かれる様が,多くの穿った見方をする一般の方の「地球温暖化異説」に取り憑かれる様によく似て見えます.
このblog でもよく
ネタ(リンク先の最後など)にしていることですが「進化論」なんかでも,こういう現象は見られます(学会では,とうに議論の済んだ話なのに,一般の社会の中では未だに議論が紛糾しているように見える現象のことね).
多分,これは問題そのものが身近過ぎて「簡単そうに見えてしまう」ことが原因なんだろうなー,と思います(いや,実際,「最終定理」はともかく,地球温暖化問題や進化論は主要学説自体がもの凄く簡単なんだけど……).んで,問題は,そういう人たちが「問題」自体を「簡単そう」とか思っておきながら,(学会と言うブラックボックスの中で)あまりにも単純に物事を説明されると「俺様にしか考えつかないもっと高度な説明(笑)があるはずだ!(主要説より格好良い「宇宙線」とか「太陽黒点」とか言う単語が使われている!こっちが正しいに違いない!)」となってしまうのでしょう…….あと,アンチ趣味って言うのも大きいかもしれません(しかし,そのアンチ趣味が「水は0 ℃で凍る」と言う物理現象の記述に対して,「水に良い言葉をかけると綺麗な結晶を作ってくれる」と言って「道徳」を説くくらい狂った趣味だと言うことに気付かないというのは,心底どうかと思う).
多くの場合,異説に踊らされる人たちは,自分の頭をまったく使っていないため,議論の真偽を見極められないか,何らかの宗教的な信念に基づいて物事を曲解しているといえます(例として,進化論ネタで
こんなサイトを挙げておきます.はっきり言って,我々から見ると「環境問題の異説」を唱えることは,こういう電波を飛ばしているのに等しいです).
同じ証拠に関して,自分が他人と違う解釈を持ったとき,相手(大多数)を論破出来る根拠もないのに「異説」を支持することは,考察ではなくただの妄想です.または,自分が「根拠」と考えていた理論が論破されたのに,それを認めず,自分(または自分の信奉する仮説)を信じ続けることは,科学行為ではなく宗教行為です.そして,もっと絶望的なことを言うのであれば,「異説を信じている自分」の敵は,世界最高峰の科学者たちの形成する頭脳集団なのです(別に,科学者だから上とか偉いとか言うつもりはありませんが,問題に関して「命がけで研究している人」と「普通の人」のどちらがより科学的に考察できるかは明らかだと思います).
ソレデモ,アナタハ,自分ノ信ジル異説ニ殉ジマスカ?
<関連>
「環境問題(笑)」(
http://yulico-dot-com.seesaa.net/article/84244077.html)
「環境問題(笑)2」(
http://yulico-dot-com.seesaa.net/article/90862948.html)
「環境問題(笑)3」(
http://yulico-dot-com.seesaa.net/article/95832490.html)
(同日 5:10 追記)
内容に補足.
全然関係ない論文を読んでいて,偶然見かけたから書いておく(とか偉そうに言いながら,さっきまで全然知らなかった……orz).
二酸化炭素の温室効果による気候変動を初めて論じたのはArrhenius, S. (1896) だった.因みに,その2年後にはChamberlin, T. C. (1898) で,氷期と二酸化炭素分圧の関係についての議論が行われているとか…….
えーと,つまり,地球温暖化の原因が二酸化炭素じゃないって言っている人間は,
脳みそが一世紀遅れと言う認識でOK ? ※Arrhenius は,あの,高校の化学の教科書にも載っているアレニウスです.化学反応速度に関わる「アレニウスの式」とか,酸と塩基に関する「アレニウスの定義(水に溶けて水素イオンを生じるのが酸,水酸化物イオンを生じるのが塩基,ってやつ)」で有名な化学者でつ(1903 年,ノーベル賞受賞).