2008年07月05日

科学者はバカじゃない

こんにちわ.yulico です.最近の環境問題関連のスレでのねらーの先生方のレス群を見ていて気付いたことを一つ.

「こいつら,IPCC の報告書に関係しているような世界最高峰の頭脳を捕まえて,自分と同程度の脳みその持ち主だと思ってないか?」

…….

2ちゃんねらー(て言うと範囲が広すぎて語弊があるならvipper)というのは,僕の認識では,日本の最底辺の人間の澱のような存在だと思っていたんですが,もしかして,勘違いですか?あの方々は,学会に所属していない,異端の天才科学者かなにかなんでしょうか?

閑話休題.

最近,世の中の環境系電波サイトやら恐竜ヲタサイトやらを巡っていて気付いたこと.

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ただし,以下の文章はこの話でいうところの,サイエンスコミュニケーションの最低限の基準を満たす人間を想定して書いてあります.

しつこいようですが,この一文は重要と考えているので,一応.

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実は,金子隆一が「知られざる日本の恐竜文化」の中で展開していた「ある学術分野」に群がる人間の分類は(少し修正を加えると)非常に妥当な見解なんではないだろうか……ということ.

簡単に説明すると,金子はマニアから研究者と言う「特定学術分野」に群がる人間を下記のように区分している.

「第一段階:その分野に興味をもち,関連書籍を読んでいる程度のマニア」
「第二段階:関連書籍よりも深く知りたいと考え,学生向けの教科書や,場合によっては査読済み論文などの一部をかじっているマニアの親玉」
「第三段階:研究者」

多分,この分類ってどんな学術分野でも成り立っていて,一般社会に対する啓蒙を担う層の人間を非常に悩ませているものだと思う.

この辺りの啓蒙にまつわる簡単なお話は,北村氏のweb site であるhilihili のどこかに書かれていることなので多少端折ります.

一般的に,上記各分類群の人数比は,

第一段階>>>>>>>>>>>>第二段階>>第三段階

……となっています.

で,啓蒙書を発行する人間は,第一段階の人間しか相手にしません(一番売れるから).逆に,第三段階むけには教科書を発行します(数は売れないけれど,そもそも大きい売り上げを期待しているわけではなく,さばける冊数がある程度予想できて,それをさばけば確実に儲けになる,という売り方が出来るから).そこで取り残された第二段階の人間は,読む本がなくなってしまう(素直に第一段階向けの本を読めば良いんだけどそれはしないし,第三段階向けの本やジャーナルは全て読めないし,ほとんど理解できない).

これが,出版と言う「商売」が絡んだときの知識の伝搬格差です.

ここで重要なのは,得られる情報の量が下記の比になっているところ.

第三段階>>>>>>>>>>>第一段階>>第二段階

素直に情報の発信源の数だけを比較すると実は,第一段階のほうが第二段階よりも情報強者なのが現実です

……しかし,残念ながら,世の中はこういう風に上手くは回らないんです.はい.上手く回ってくれたら,情報弱者な第二段階はいずれ駆逐されて,第三段階に出世するか,第一段階に甘んじるようになるわけです.

ところが,そうはいきません.

なぜなら,第一段階からみた序列は下記のようになっているからです.

第三段階>第二段階>>>>>>>>>>>>>>>第一段階

(※実際の序列が,
第三段階>>>>>>>>>>>>>>>>>>>第二段階,第一段階

……ということが第一段階からでは見えないのですな.第一段階と第二段階の差も,確かに十分に大きいから…….
なお,「科学者(第三段階)」と「科学を愛好している人間(第二,第一段階)」との根本的な差異に関しては同僚がよくネタにしているのでそちらをご参照下さい.まぁ,簡単にいうと,サイエンスに真摯であることに,命がかかっているかいないかってとこ?)

つまり,第一段階から見ると第二段階も第三段階と同じく「先生」になってしまう,と言うこと.

しかし,さっきも言った通り,受け取っている情報量は,

第三段階>>>>>>>>>>>第一段階>>第二段階

なわけです.要は,第一段階より無知なはずの第二段階が第一段階の「先生」になりうると言う現象が生じます.

しかし,第二段階の人間は,第一段階向けの真っ当な普及書を読まないし(多少は読むのか?),第三段階のしている高度な議論には全くついて行けません.そう言う人間が至るのは,必然的に無理解による科学の誤解です.理解できないなら,自分の脳みその出来を呪って,第一段階に混ざれば良いのに,何故かそれをしないんですね.じゃあ,なにをするのかと言うと,




「第三段階の理屈は間違っている!なぜならこの俺様が理解できないからだ!……だから俺はこの学問に新しい理論を吹き込んで,新世界の神になる!!」




んで,その無知,または不十分な理解に基づく根本的に誤った理屈を,第二段階は第一段階向けに出版してしまうんです…….ここで,便宜的にこういうアホな第二段階を「似非第三段階」と名付けましょう…….

(※もちろん,比較的真っ当な勉強をし,比較的真っ当な第二段階の人間も存在します.でも,そう言う人って,第三段階が十分に正しいことを認識しているから,騒いだりしないんだよね……,まして出版までは……)

そうやって,似非第三段階による出版の影響を混ぜると,上記の序列は,

第三段階>>>>>>>>>>>>>>>>>>>第二段階,第一段階

から,

第三段階>>>>>>>真っ当な第二段階(←何故かここから第一段階が消える)

第一段階<<<<<<<似非第三段階

……という2つの式に変わります(不等号の向きが大事).この時点で,第一段階は,完全に研究者とは関わりを持てない存在になってしまうわけです(こうなってしまうのは,第三段階の人間が啓蒙活動をほとんど行わないことに対して,似非第三段階が活発に動き回ることが原因のひとつではあるんだけれど……).

こうなると,社会というくくりの中では,実際には正しい認識を持っているはずの第三段階と真っ当な第二段階の人間よりも,誤った妄想に引き摺られる可哀想な人たちの数が圧倒的に多くなってしまうわけです.

やがて…….

似非第三段階の妄言は,第一段階の人間を洗脳し,第一段階の人間の認識は,

「むしろ,第三段階とかいって,研究者のほうが妄想に取り憑かれてるんじゃね?」

……という,本末転倒に至るんじゃないでしょうか?

「なんで,専門家じゃない似非第三段階先生が言っているような単純なことも理解できずに,科学者(第三段階)とか言うバカは,王道だからって主要説を信じるの?バカなの?」

……とかいう発言に繋がるんじゃないでしょうか?

「そうか,科学者(第三段階)とかいう連中は,似非第三段階先生の言うことをちゃんと理解できている俺様よりバカなんだな.そんなバカの研究費に税金が使われるとかマジ死ねよ」

……とかなっているんじゃないでしょうか?








ふ ざ け ん な !


……はあはあ.

(落ち着くために手元のお茶を飲む)



……さて,これでなんか,全部理解できたような気がします.

そこに,社会一般で,理科の難しさは,

物理,化学>>>>>>>>>>生物学>>>>地球科学

……という認識が広まっている状況です.



そりゃあ,環境問題系のネタや,古生物学界隈にアホが湧くわけだ……

(※例えば物理じゃこんなサイトがあったり,これに類するような書籍があったって,誰も見向きもしないからね.多分,研究者が十分に尊敬されているから)


でさ.

結局,これって,もうどうしようもなくね?

そんな,絶望のお話でした.

……もう,僕らに出来ることは,小鳥おねえたんに癒されることだけだよ…….
posted by yulico at 17:56| Comment(0) | TrackBack(0) | おべんきょう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする