先日,この記事を某サイト様でネットストーキングされた際に,匿名希望のネットストーカー様より下記のような質問を頂きました.
質問の内容的に,このblog で再三扱ってきた内容なだけに「はやく答えなきゃなー」とは思っていたのですが,そんなに自分に余裕がなかったことと,問題が結構難しいこととで,延ばし延ばしになってしまっていたんですが,
正直,こんな記事を書いて,舌の根も乾かぬうちに,「ニセ科学批判」ではないものの(以下で扱う「地球寒冷化」は必ずしも「ニセ科学」ではないし,僕自身は批判する気がない.逆に論理の欠落した "地球温暖化" は,ときにニセ科学になり得ることもある),それに類似した記事を書くというのもなんか気持ちが悪いのではありますが,あくまで「ニセ科学」を批判するのではなくて,検討に値すると考えられる情報を提示するのが目的であって,この記事をもってニセ科学を批判したり,こっちが科学的に正しい(笑)なんて主張をするつもりは毛頭ありません.当然,今回,僕が提供したような情報をもとにお読み下さったお客様が何を考えられるか,まで誘導する気なんてありません(責任持てないので).
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ちなみに,この記事は「環境問題(笑)6」に当たります.本シリーズの過去ログはこちら,または,下記リストからご覧下さい.今回は,下記の質問に対する回答がメインの記事ですので,まず,過去ログをじっくり読んでからお読み下さい.
・「環境問題(笑)」
・「環境問題(笑)2」
・「環境問題(笑)3」
・「環境問題(笑)4」
・「環境問題(笑)5」
また,以下の文章はこのガイドラインに基づいて書いています.つまり,無尽蔵のバカは想定していません.仮に下記の質問に登場する A さんが日本語が通じないレベルのおバカさんだった場合は想定の範囲外ですので,ご了承下さい.
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Y さんから僕に寄せられた質問は下記のようなものでした.
yulico さんこんばんは。匿名希望のYと申します。
最近、友人A氏が「最近、地球が寒冷化してきている」と言い始めて困っています。「温暖化はマスコミによる風説の流布」「太陽の黒点の活動がどうのこうの」「地球は氷河期に突入している」とか言っているようですが、マイナスイオンとプラズマクラスターの区別もついていない様子。とりあえず、「あなたの信心深さが温暖化から地球を救った。さらに、ヨシミCDスペシャルエディションを1枚100万円で100セット買えばあなたは永遠の命を授かる」と言いましたが、買ってくれませんでした。
どのようにすれば売りつけられるでしょうか…じゃなくて、えーと。
どのように切り返せばいいのでしょうか。「地球寒冷化論者」に対する、ウィットに富んだうまい切り返し方を教えて下さい。
そんなの「地球温暖化は信じないのに,なんで寒冷化は信じるの?科学者は何も『信じて(believe)』はいないよ?」っていえばおしまいな気もしますが,それじゃあんまりにも不親切ですし,ウィットに富んでいるとも思えないので,以下に別な回答例を用意しましたので,長い記事なのですが,是非,ご一読下さい.
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<質問内容と A さんの主張への解説とサジェスチョン>
まず,
最近、地球が寒冷化してきているという A 氏の主張ですが,少なくとも記録が残っている時代以降を議論の対象とするのであれば完全に誤りです.タイムスパンの取り方には様々な方法がありますが(例えば,1 年のスパンで見るのであれば,毎年,温暖化と寒冷化をくり返すし,1 日のスパンで見れば,毎日,温暖化と寒冷化をくり返すわけです),(根拠の有無はともかく)数十年〜百数十年程度のスパンで見れば,産業革命以降,年間平均気温は上昇し続けています.もう少し長いスパンで概観するのであれば,いわゆる万年雪が各地で融解しているという報告があり,現在(正確には1970 年代以降の30 年間)が,過去 10000 年で最も暖かい気候であったことが明らかになっています(1970 年代に行われた調査の際に過去 10000 年以上の記録を保持していた氷のサンプルが 1990 年代以降の調査では,温暖化に伴い融解したせいで記録が散逸してしまっていた,という報告があります.つまり,過去 10000 年間,その地域では氷が融けることなく積もり続けていたにも関わらず 1970 年代以降,その地域でも氷が融ける気温になった,ということを示します.因みに 10000 年より古い時代は,大雑把にいえば氷期なので,当然,もっと寒いです).これらは,観測事実ですので否定することはできません.
当然,タイムスパンの取り方次第でいくらでも恣意的に解釈できますし,上記のようなタイムスパンの取り方が恣意的なものかもしれません.しかし,少なくとも,よほど恣意的にデータを解釈しない限り,現在までに寒冷化が起こっている,という言い方をするのは難しいと思います.……というか,数値データを他人に納得させられるようにいじくってやるのが仕事のひとつである僕でも,難しすぎてそんな仕事はやりたくないです(多分,できないし).
次に,
温暖化はマスコミによる風説の流布ということですが,これに関しては,サイエンティストの側からは何もいうことはありません.だって,マスコミさんが何を言っているのかなんてサイエンスとは関係ないですもの.でも,サイエンティストの言っていることにはそれなりの根拠があるので,ちゃんと読んでから自分なりに判断してくださいね.
更に,
太陽の黒点の活動がどうのこうのという A さんの主張ですが,現在,太陽の黒点が無くなって(少なくなって?),太陽からの入射が減少している(黒点活動が活発な時期が一番太陽の放射量が多いので,黒点が少なくなると地球への入射量が減る計算になる→寒くなる),ということを指しているのだと思います.
こういうシステムは,いわゆるニセ科学批判をする人たち(笑)に,「ニセ科学(笑)」として取り上げられることが多いのですが,実は,非常に重要なシステムです.なぜなら,地球の気温を作るメカニズムの中で,太陽からの入射量は非常に大きなウェイトを占めているからです(「環境問題(笑)」に詳しく書いていたはずです).
例えば,過去に小氷期(Little Ice Age)というイベントがあり,その際の気温低下(あとでもうちょっと解説しますが,正確には「地球寒冷化」ではないので敢えてこう書きます)の原因のひとつとして「太陽黒点の減少の影響である」というのは有力な仮説です.
因みに,小氷期というのは「中世の温暖期(西暦 1000 年〜1300 年くらい)のあと,1300 年〜1800 年代初頭までの期間中の,気温低下が1℃未満に留まる,北半球における弱冷期」のことです.昔(十数年前くらい)は,もうちょっと広範囲に及ぶイベントで,もうちょっと冷え込んでいたと考えられていたようですが,現在では,北半球高緯度地域で顕著に認められる(つまり汎世界的ではない)「ちょっとした冷え込み」と解釈されています(小氷期は「テムズ川が凍っていた!」などのセンセーショナルな物言いで語られるため,誤解されていることが多いイベントです.しかし,冷静に考えれば,そもそもロンドンは北緯 51° に位置します.地理的なセッティングが全く違うので単純な比較は危険ですが,これはサハリンと同程度の緯度です.基本的に,高緯度ほど季節変化が激しく,全球的な気候変動の影響を受け易いので,ちょっと冷えれば,冬に川が凍る程度のことはあっても驚きません).
先程も述べた通り,この小氷期を引き起こした無数の原因のひとつであり,主因の候補と考えられているのがマウンダー極小期と呼ばれる「太陽黒点が極端に少なくなっていたために,地球への入射量が減少していた時期」の存在です.つまり,過去にも太陽黒点が減少していた時期が実際にあり,その時期に気温低下が起こっていたことが確実に分かっています(多分,「マウンダー期が原因のひとつである」という仮説はそう簡単に覆らないと思います).そういう意味では,太陽黒点の減少は寒冷化の原因になりえます.しかし,小氷期に関する研究の多くで,「太陽黒点の減少だけでは,小氷期の気温低下のすべてを説明するのは難しいので,その他の要素も伴った複合的な気温低下イベントである」とされています.また,気候モデルの上でも太陽黒点の減少程度で十分に地球を冷やすのは難しいようです.そんなわけで,小氷期に関しては,例えば,太陽黒点の減少の他にも,複合的な原因のひとつとして火山噴火の頻発による成層圏でのエアロゾルの増加,などが挙げられています.
この辺りの太陽活動の影響による地球環境の変動にまつわるお話は,面白いのですが(学問的にも政治的にも)難しくて,容易に扱えるものではありません(ので,ここではこの程度で抑えておきます).以前,丸山先生の主張で有名な「宇宙線ー雲発生による寒冷化の話」をトピックとして扱ったので,今度,「太陽黒点と小氷期」というトピックでちゃんと記事を書こうと思いますので,ご期待下さい.
そして最後に,
地球は氷河期に突入しているという A さんのお言葉に対してです.
(初学者というか素人に学者の卵が大人げなく無遠慮に突っ込むのであれば)
氷河期に突入しているも何も,少なくとも中新世の中期以降,かれこれ 1000 万年以上前から現在に渡ってずーっと氷河期です.もっというと,確実なデータはないですが,おそらく 3000 万年前の始新世/漸新世境界の寒冷化イベント(Oi1)以降,ほとんどの時代は氷河期になるはずです.なぜなら氷河期という語は,「地球に氷河(氷床)が存在する時代」と定義されているからです.現在は,グリーンランドと南極に巨大な氷床がありますので,氷河期に当たります.
(初学者に優しく接するのであれば)氷河期という語を誤用しているのであろうと推察できますので,この言葉は,
地球は氷期に突入していると読み替えるべきでしょう.因みに氷期とは,「氷河期の中で特に寒かった時代」を示します(逆に暖かかった時代を間氷期と言い,現在は間氷期であるといわれています.これらの氷期ー間氷期という語は同位体比の変動に基づいて明確に定義されています).
で,読み替えた
地球は氷期に突入しているという A さんの主張に対してですが,氷期なのか間氷期なのか,ということは終わってみないと分からないので(あくまで同位体比に基づいて定義されるので),原理的に分かりません.
ただし,少なくとも第四紀以降(およそ 260 万年前〜現在)の氷期ー間氷期変動は,地球の軌道要素(Orbital Forcing:通称,ミランコビッチサイクル)に強く影響されています(正確に言うとそれ以前もずっとそうなんだけど,第四紀以降が特に有名なので).中でも,ここ最近の 100 万年間(MIS 11 以降)は,10 万年くらいの周期が卓越していることが分かっています(地球の公転軌道の離心率の変動が 10 万年の周期を示します).現在は,前の氷期で一番寒かった時期であるLGM(Last Glacial Maximum: 最終氷期最盛期)から高々 20000 年しか経っていないので,10 万年周期が継続していると考えるのであれば,むしろ温暖化が進行している時期に相当するはずで,氷期に突入している時期に相当するとは考え難いです.仮に,前回の氷期(最終氷期)から現在の間氷期の間に,なんらかの原因で,地球の軌道要素の中でも一番周期が短い,最差運動の周期(約 20000 年周期)が急に卓越しはじめたとするのであれば「現在の地球は氷期に向かっている時期に相当する」と,無理矢理いえなくはないですが,地球の軌道要素は天文学的に単純に計算できるので,そういう可能性はほぼゼロであることが分かっています(……というか,現在の軌道要素の計算が狂うためには,外部から軌道要素を変えるような力を与える必要があります [ex. 月ができたときくらいの超巨大隕石の衝突].そして,そんなことがあったら温暖化していようがしていまいが,間違いなく生命圏が崩壊しているので,どうでもいいです).
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……と,このように A さんには,基本的な(悪く言えば常識的な)基礎データに関する知識の欠如が認められます(本当に知らないのか,見なかったことにしているのかは分かりません).基礎データの解釈の仕方は各個人の勝手ではありますが,正規の手続きをへて得られている基礎データ自体を見ないことにするのはサイエンティフィックな態度とはいえません.すべてのデータを考慮していて,それらの多くを大部分に渡って整合的に説明することができ,かつ,棄却したデータに対してその根拠を示すことができるのであれば,「今後,地球が寒冷化する」と主張するのは自由ですが,そうでないのであれば,その主張はサイエンスとは言い難いと僕は思います(「今後,地球が温暖化する」という主張も同じです.).
A さんは,どこかで聞いた「寒冷化の話」を,宗教的に信奉しているという状況にあるように思えます.つまり,科学に対する態度を根本的に勘違いしていると言わざるを得ません.
科学は信じるものではありません.
こことかこことかこことかここでもこれまで散々論評したことの蒸し返しになるのだけれど,科学に対して人の取り得る態度は論理展開を追試することのみであって,それ以上でも,それ以下でもありません.そして,その論理展開に欠落がなく,今のところ反証が挙げられていないのであれば棄却することはできません(ここは勘違いしないでね.信じるのではなくて,棄却することができないだけだからね).
某丸山先生の著書の中に,2008 年の日本地球惑星科学連合大会における「地球温暖化 V.S. 地球寒冷化(正式名は『21 世紀は温暖化なのか,寒冷化なのか?』だったと思う)」のセッションで,挙手調査において多くのサイエンティストが今後の地球環境の変化に対して「温暖化」でも「寒冷化」でもなく,「わからない」と答えた,という下りがあります.このような結果になるのは,そもそも科学者にとって仮説というものは「支持する or 支持しない」で判断するものではないからです(言ってしまえば,この挙手調査の際に「わからない」以外の選択肢に挙手をした人は,なにか科学とは無関係な政治的な意図があるということです.または,ただのばk……あれ,こんな夜遅くにチャイムが……?誰だろう?).
……少し話が逸れましたが,つまり,A さんに対する回答というのは「宗教の熱心な信者に対して何をいえば良いのか?」という問題と等価です.僕個人は A さんがそれで幸せならば別に何かを知らせる必要も,回答する必要もないと思います.日本は信教の自由が保証されている国ですからね.
しかし,僕も創価学会員の折伏で苦労した経験がありますので,質問者の Y さんの苦労が偲ばれます.そこで,A さんに対するウィットに富んだ回答の例をいくつか考えてみました.
「あー,それ知ってる!このあいだテレビのドキュメンタリーでやってたよね!(『テレビで茂木健一郎が言ってた!』も可)」
「うん.昨日も昼は暖かかったのに,夜は涼しかったよね.多分,今日もじゃないかな?」または「うん,うん.9 月を過ぎるとやっぱり気温も落ち着くよねー」または「何言ってんの?これから夏になるんだぜ?」
「二酸化炭素を増やして温暖化を促進させるために,電気(火力発電)を無駄遣いするべきだよ!そのために,ヨシミCD を沢山購入して無限ループで垂れ流すっていうのは Do-Dai ?」(販促 ver.)
「だからそんなに興奮してるのか!(←体温で空気を暖める的な意味で)」
「(ソースの論文を)zip でクレ」
「寒冷化するならエコに余分なエネルギーを使って,無駄に二酸化炭素を出している日本の現状は素晴らしいじゃない.政府もそれを見越してやっているんじゃないの?それのどこに文句があるの?」
「なんでそんなに unique な考察があるのに論文書かないの?」
「(真顔で)な,なんだってー!!」または「A さん,マジ,っっっ(溜め)っっっパネぇっすね!」
「俺は温暖化でおにゃのこの服装が開放的になった方がいいなー」
……以上,順不同です.いかがでしょう?ひとつくらいお気に召す回答例があったなら幸いです.
※別にこの記事を紹介してもらっても全然構いませんけれどね.ただ,僕は,日本語の通じない相手にはとことん冷たいですが.
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こんなの(ニコニコのアカウントをお持ちの方のみ)を聞きながら勢いで長文を書き上げたので,ミスをみつけ次第,ちょこちょこ修正入れると思います.
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15:30 6/25 一部文章を修正.
こんにちは。最近NASAが地球温暖化の原因は二酸化炭素ではなく、太陽活動によるものであると公表しました。数年間にわたる研究の結果確証を得たので、発表ということになったのだと思います。これは、いままでのNASAのスタンスからみると画期的なことだと思います。1年前には、アメリカ陸軍の研究者が、二酸化炭素説に反対する旨を公表しています。いずれにせよ、環境問題に関するもののうち、二酸化炭素説に属するものに関しては、積極的に推進しても結局は何にもならないどころか、徒労に終わると思います。特にサブ・プライムローンより低劣な金融デリバティブ商品である二酸化炭素排出権取引など大々的に行えば、いずれ金融危機の二の舞になると思います。詳細は是非私のブログをご覧になってください。