唐突ですが、僕は、小説を書くのが趣味です。とはいっても、最近は、全くといっていいほど手をつけてはないんですが……。
で、思ったのは、このブログを使って「掌の小説(てのひらの小説って読んだ無教養人は氏ね)」を書いてみるって言うのもありかなー、ということ。ショートショートではなく、あくまで「掌の小説」。純文しか書く気ないので。
というわけで、まずひとつ。
「待ちぼうけ」
春の落ち葉、雪国の枯葉は二度舞う、なんて書いたのは太宰治だっただろうか。僕は、そこに来て何本目かの煙草に火を燈しながら目に付いた、融けかけた半透明の雪の下に埋まる枯葉に、ふと、そんな詩句を思い出した。どんよりと垂れ下がるような雲からは今にも雪がちらつきそうで、そろそろ、煙草を持つ剥き出しの右手がじくじくと痛み始めていた。
でも、待ち人からは何の連絡もない。
「遅れるのだったら、ひとこと連絡してくれればいいのに」
そんな悪態が口をついてでる。
煙草をせわしなく口へ持っていきながら持て余した左手で、手近の雪を弄ぶ。雪は人肌ですぐに融けてしまうが、融けては握りこんだ雪の玉を捨て、新しい雪を握りこむ、そんな徒労を繰り返すうちに、いつしか、左手の感覚はなくなり、雪の玉も融けにくくなっていく。退屈は、僕を、そんな徒労に夢中にさせた。雪の玉を握りこんでは捨て、また、新しい雪の玉を握りこんでは捨てる。つまらないな、と思いながら雪を握りこみ、煙草を一息のみ、その煙を吐き出しながら、半透明になった雪の玉を捨てる。握る、捨てる、握る、捨てる、握る。
フィルターすれすれまで煙草を吸いきった僕は、雪を握り締めたまま、吸殻を思い切り地面に投げ捨てると、なんとなく足元に溜まった雪の玉を蹴散らし、雪の玉を握ったまま左手をコートのポケットに突っ込むと、歩き出した。待ち人は、来ない。来られないのかもしれない。雪が降り出した。僕は、待った。待っていた。歩く速度が上がった。四時を回ったせいか、心なし寒くなったような気がする。僕は、何本かの煙草と、何個かの雪の玉に変わった時間の果てに、ようやく、待ち人など居ないことを思い出した。認めた。歩く速度が落ちる。そして、立ち止まる。ぼた雪は勢いを増すでもなく、なんとなく、降り続く。立ち止まった足元には、雪融けで露出した地面と湿った枯葉、そして、冷たくなった三年前の僕の形が横たわっていた。左手に握った雪は、もう融けた。
そして、待ち人は、何も知らない笑顔でようやく現れる。遅刻の非礼を詫びながら。
ご感想をお待ちしております。野暮なので解説はいたしません。
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