というわけで,以前書いた記事「環境問題(笑)」(http://yulico-dot-com.seesaa.net/article/84244077.html)の外伝的なネタをmixi で書き殴ったのでそのまんま転載.来客との対話部分や元記事をup してないで(主に著作権的な意味で),肝である教科書的な記述としての「環境問題解説」を抜き出してあります.そのせいで一部で文意が通じないところがあります.
また,地球システムを語る上で一番重要なミランコヴィッチサイクルに関する解説がすっぽ抜けているのは仕様です(無計画で書き始めたからすっぽ抜かしてしまった……).
ちなみにmixi アカウントをもっている人はこちら(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=752754191&owner_id=2088510)が元記事なのでちぇっくいっとあうとっ!
また,この件に関しては同僚(http://oanus.blogspot.com/)の言い分も聞いてもらいたいので(学者による啓蒙と社会の受け取り方の乖離について etc.),mixi アカウントをお持ちのお客様は http://mixi.jp/view_diary.pl?id=752803294&owner_id=1701049 もご覧ください.
(以下転載)
同僚(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=752803294&owner_id=1701049)との分業という意味で,こちらでは科学的根拠の話と真しやかに囁かれる噂に関して書いておく(ただし,文中リンクと内容は被っています).
(1)地球温暖化と二酸化炭素
地球の気温というものは,凄く単純に考えると,基本的に太陽からの入射量,地表での光吸収,地球の反射率,地球外への赤外線の放出(難しく言うと地球の黒体放射)の四要素のバランスと,それに加えて,温室効果ガス(赤外線を吸収する性質を持つ)の温室効果が決める.
入射量を100,反射量を30,吸収量を70,黒体放射を60,温室効果ガスの吸収量を20 とすると,
(70 − 60)+ 20 = 30
……という計算で,地球は30 だけ暖まることになる.
このとき,基本的に太陽からの入射量は変わらないと仮定出来るので,効いてくるのは残りの四つの要素になる.このとき,地球の反射率は雲やら雪やら氷床やらのおかげでころころと変動してしまうので追跡不可能だし,今は,もの凄ーく大雑把な議論なので,通年で考えれば各年のばらつき程度は無視できる(と仮定する).また,地表の吸収量と黒体放射の量は反射率に依存するので,これも同様に無視できるとみなせる(と仮定する).
そうすると,地球の気温が変化する上で,一番,敏感に影響してくるものは,温室効果ガスの働きだということがわかる.同じ地球型惑星でも,温室効果ガスがありすぎて超温暖化したのが金星,少な過ぎて寒冷化したのが火星,という風にイメージするとわかりやすいと思う.
この温室効果ガスの中で一番大きな働きをしているのが二酸化炭素である.これは,赤外線の吸収率が高く,かつ量が多いことが原因である(赤外線の吸収能力が二酸化炭素より遥かに高いガスはいくらでもあるが,大気中の濃度が圧倒的に違う.逆に水蒸気は二酸化炭素よりも遥かに濃度が高いが,温室効果は小さいし,挙動は把握しきれない).このことが理解できれば,二酸化炭素が地球の温度に強く関連していることは明白である.
実際,過去の地球の気候は基本的に大気中の二酸化炭素濃度に支配されている.
例えば,恐竜が陸上を歩き回っていた白亜紀の温暖化は,大規模な火山活動によって二酸化炭素の量が現在の数十から数百倍あったことが原因であるし,新第三紀以降の寒冷化は,アルプスやヒマラヤの造山運動に伴い,大気中二酸化炭素濃度が減少したことが一因であると考えられている.
(2)今は温暖化しているの?
結論から言うと,現在の地球は温暖化傾向にある.
・多くの観測地点のデータが,産業革命以降,温暖化する傾向を示している.
・都市温暖化と無関係な,多くの地点で過去1万年に渡って融けていなかった万年雪や氷床が融解し始めている.
などの観測事実から明らかに温暖化傾向にあると言える.
また,大気中の二酸化炭素濃度は,確実に上昇している.このことは,(1)より温暖化傾向を示している.
ただし,気候の温暖化傾向と,実際の気象との間の因果関係は誰にもわからない.
(3)二酸化炭素は人為起源?
これも結論から言うと明らかに人為起源である.
難しい議論になるのでこの辺りはさらっと流すが,人間が化石燃料を燃やして発生させた二酸化炭素にはある種のマーキングがされていて(同位体比という言葉が理解できる人は各々より詳しいところを調べてほしい),大気中の二酸化炭素増加量と,マークされた二酸化炭素量がほぼ釣り合っている.
また,二酸化炭素を発生させる原因として人間以外で一番大きい要素は火山活動だが,温暖化傾向と火山噴火数の相関性は今のところ見られない.
(4)太陽の入射量が一緒って本当?
厳密に言うと嘘.
太陽黒点とかの議論になるんだけど,これが完全に無関係か?と問われると地球科学者は誰も「無関係」とは言えない.ただし,これまでのところ,黒点量の変化の周期性(長らく11 年周期のまま)が変わったという報告もなければ,太陽からの入射量が増加したという報告もない.
この議論を唱える人たちは,中世の頃にあった「小氷期」というイベントを絡めて話を作ってくるんだけれど,確かに,この小氷期というイベントは,太陽黒点が極端に少ない期間が長らく続いたという特殊なイベントがあった時期(マウンダー極小期)と一致する.つまり,小氷期の原因の一つが太陽黒点の減少にあることは,ほぼ定説である(ただし,他の原因として,火山噴火によるエアロゾルの増加などがあり,単一原因ではないことも明らかである).
しかし,この議論と,特に太陽黒点の特別な挙動の観察されていない現在の温暖化を同じく語る事はできない.また,かなり特殊なイベントである太陽黒点減少の影響は,15 世紀から19 世紀まで続いたにも関わらず,気温低下は1 ℃未満であり(しかも,北半球だけ),今回の短期的かつ急激な温暖化のスケールとは桁が違う(現在の温暖化は太陽黒点の増加程度の入射量増加ではまったく説明できない).
要約すると,太陽黒点云々の議論は今回の温暖化と無関係とは言わないまでも温暖化の主要因だ,と言い張るには論理的に破綻しているし無理がある,と科学者は考えているということ.
そんな無理な理屈より,「二酸化炭素濃度の増加が主要因」という簡単に説明できて観測事実とも齟齬を生じていない理屈の方が科学的にマトモだし,反例が全く提出されていない,という事実に目を向けるべき.
(5)地表での太陽光の反射ほかについて.
(1)で,地球の熱の収支に関して凄く大雑把な議論を行ったが,果たして,地表における反射とそれに伴って変わる二つの要素(吸収量,黒体放射量)が,温暖化と無関係かというと,そんなことはない.
簡単に言うと,反射量とは地表における白い部分の面積に比例する.つまり,太陽に向けている面のうち,50 % が雪か雲で覆われていれば,太陽光は地球に半分しか入ってこない,という理屈である.
この反射のことを専門用語でアルベドという.アルベドは,雲の流れや雪の量などとともに刻一刻と変化しており,人間の力ではその変化を捉えたり,予測することは不可能である(だから(1)の議論では考慮しなかった).
さて,ここで,急に寒冷化した地球を想像してみよう.寒冷化した地球では,現在起こっている現象と逆に,南極の氷床,北極海の氷の拡大が起こることは想像に難くない.このとき,当然,氷(=白いもの)が増えた地球のアルベドは増加する.これを,(1)で出した式に当てはめると,下記のようになる.
入射量を100,反射量を30,吸収量を70,黒体放射を60,温室効果ガスの吸収量を20.
(70 − 60)+ 20 = 30
↓
入射量を100,反射量を40,吸収量を60,黒体放射を55,温室効果ガスの吸収量を15 とする
(60 − 55)+ 15 = 20
つまり,アルベド(反射率)が上がると,地球がもつ熱は勝手に少なくなってしまう(反射量が増えれば,自動的に吸収量が減り,吸収量が減れば,自動的に黒体放射量が減り,黒体放射量が減れば,自動的に温室効果ガスの吸収量が減るのは自明).つまり,寒冷化が勝手に加速してしまう.そして,加速した寒冷化で,また氷の面積が広がり………(以下,無限ループ).
これが,究極にまで行き着くと,最近流行りの「スノーボールアース」という過去に起こった大事件にまで発展してしまう(ただし,大型生物が発生してたあとの五億年間はこの事件が起こったことがないので,学者は,仮にこれから先,寒冷化が起こっても,スノーボールアースは起こらないと考えている).
今起こっているのは,この逆の現象である.実は,両極の氷が融けるということは,アルベドが小さくなっていることを示している.後は,先ほどの説明と真逆の現象を考えれば良い.つまり,一旦温暖化が始まると,先ほどと逆のフィードバックにより,温暖化は勝手に強化されてしまう…….
氷が融けることには,実は,こういう効果もあることを,念頭において頂けると,うれしい.この理屈を理解して頂ければ,「北極の氷の面積」が変わることにどんな意味があるのか,解って頂けると思う.
なお,氷繋がりの余談を…….vesse さんのコメントに対するもう一つの返答でもある.南極の氷が増加する話.
理屈は単純で,南極の周りには周南極海流という海流があって,南極周辺海域は,他の海域から熱的隔離を受けているので,現在は非常に寒い.
温暖化が進行すると,周南極海流も暖まって南極に流入する水蒸気量が増えるため,南極点を中心に降雪量が増える.
さて,vesse さんへの返答でも書いたが,温暖化による融雪量と降雪量のバランス次第でどちらにも転んでしまうということが一点.
そして,もう一つ大事な点は,降雪量の増加で氷の体積が増えて,中心部の氷がいくら厚くなっても面積は増えていないということ(必ず減るとは言い切れないが,現在,縁辺部が溶け出していることを考えても,面積が減少する確率はかなり高いだろう).氷の面積が減少した場合,何が起こるかは先に述べた通りである.フィードバックで温暖化が加速され始めたら,降雪量と融雪量のバランスがどちらに傾くかは,誰の目にも明らかだと思う.
(6)で?結局,何が起こるの?
このままいけば,更なる温暖化が起こる,ということは確かです.それ以外のことは,はっきり言って解らない.もしかしたら,全世界が白亜紀みたいになるかもしれないし(これは言い過ぎ?でも,メタンハイドレートが大崩壊したら起こらないとは言えないかも……),映画「Day after tomorrow」に描かれていたような氷期に突入するかもしれないし(あの映画の描写は大袈裟だけど,温暖化がある程度進行すると,急激に寒冷化が進行することはあり得る.というか,たった1万2千年前に起こったばっかり),海面が極端に上昇して東京が水没しちゃうかもしれないし,もしかしたらちょこっと暖かくなるだけで,何も起こらないかもしれない…….可能性は無数に考えられます.そして,可能性の高低はあれど,どれが起こっても不思議ではありません.そのくらい,地球というものは複雑にできているんです.
でも,最悪の可能性がゼロじゃないんだったら,少しは温暖化の主な原因である二酸化炭素の排出量を制限してみませんか?
そう,科学者は思っているし,これまでも声を大にして言っているだけなんですけどね…….ここまで読んで頂いた方々には解って頂けると思いますけれど,温暖化が起こっているのをなんとかしようとするならば,人間にできることは二酸化炭素の排出量を制限するくらいなんですから…….仮に,科学者が愚鈍で,実は温暖化事態の主原因が太陽黒点だったとしても,二酸化炭素の排出量を増やして,余分に温暖化を加速する必要もないでしょう?それなら,少しは自重しませんか?
以上が,地球科学者の卵からの,ささやかなお願いです.
(以上転載)
まぁ,内容に難点はあれど,おそらく学者の立場から見る環境問題というのはこういうものです.
んで,なんでこんなものを書き殴ったのか,というと,科学を全く解らないような人種が最近流行の「えせ科学(ブラックシリカとかマイナスイオンとか)」と同列で,地球科学を眺めているんじゃないのかなぁ……という危惧感からです.
多分,大学の学科の立ち位置的な意味で,地学と生物学って化学,物理学,数学と比べると一般人(や分野外の人)に「俺でも解る簡単な分野」だとか「理系の下の方」だとかっていうカンジで舐められているんだろうなー,というのは薄々感じていることではあるんですが,一部の人間(恐れずに言うなら馬鹿)にはどうやら「科学」ですらないとか思われていそうなんですよね…….
こと地球環境問題は,もともと純粋な学術研究分野だったところに,様々な業界の思惑が絡んできて(経済屋さんや政治屋さん),それをマスゴミ(馬鹿)が微塵も理解できていないくせに「吹聴」し,それに馬鹿が群がり,そういう表面的な「報道」や「状況」しか見ていない大馬鹿(←こういうやつが一番の害悪)が「環境問題は嘘だ.学者は馬鹿だ.金儲けをしたい企業の陰謀だ……etc. 」と煽る…….その結果,一番はじめの学者が出した純粋な学術成果は誰の目にも映らないし,理解されることもなく埋もれていくという…….
(言い方が悪いのは重々承知の上で敢えてこういう表現を使うけど)馬鹿に智慧を授けてやるのも,科学をやっている立場の人間の仕事として大事だと思うわけです.マトモな言い方に直すと,せめて,こういう場で「読む」という行動をとってくれる人には,正しい認識を知ってもらいたい,と……(私がそこまで言える人間かどうかはおいておいても,「その分野を専門にしているマトモな学者の立場からの視点」を紹介することには意義があるし,真面目に解説すれば,少なくとも目にしてくれた人の中に何らかの環境問題に関する文献,報道を見るための「尺度」を残せると思う).
まぁ,そんなこんなで書いたのが上記の文章というわけです.